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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)3709号 判決

原告

小林章人

右訴訟代理人

澤田和也

被告

殖産住宅相互株式会社

右代表者

西原恭三

右訴訟代理人

小関親康

主文

一  被告は、原告に対し、一五四五万円及びこれに対する昭和五六年六月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告が二〇〇万円の担保を供するときは、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請負契約の成立と本件建物の引渡

原告が被告との間で、昭和五四年五月二四日、原告を請負人、被告を注文者として、公庫基準に適合することを内容とする本件請負契約を締結したこと、被告が、昭和五四年一二月二三日、本件建築工事を完了し、同日、本件建物を原告に引渡した事実は、当事者間に争いがない。

二本件建物の瑕疵

そこで、本件建物の建築工事による瑕疵について判断する。

(一)  基礎

(1)  土

〈証拠〉によれば、公庫基準では、土工事は割栗石を根切り底に入れ、すき間なく小端立てに張り込み、目潰し砂利を敷き十分に突き固めた上、割栗石の上面を捨てコンクリートで均一な平面にならすべきものとしていること、ところが、本件建築工事の土工事においては、割石の大きさを整合することなく、小端仕立てもなく、投げ込み敷であり、目つぶし砂利も入れていないこと、小端仕立ては投げ込み敷の場合より、建物の荷重を地盤に均等に伝えやすくすることができ、基礎構造の強さに差があることが認められ、証人大塚孝雄及び同速川岩雄の各証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2)  基礎底盤

〈証拠〉によれば、公庫基準では、基礎底盤は、巾三二センチメートル以上、厚さ一二センチメートル以上の形態が必要とされており、本件請負契約においても、巾、厚さが一定の直方体状の基礎底盤が約定されていること、ところが、本件建築工事においては、型枠なしの引均しコンクリートがなされているにすぎず、基礎底盤が不整形の形態をなしており、フーチングの測定がなされていないことこのように、基礎が不整形の場合、不同沈下のため、基礎の底盤が破綻することがあり、型枠なしにコンクリートを流し込んだ場合、水分が土に吸収され、強度のおちる可能性があり、厚さ、幅の一定しない捨てコンクリートは、基礎構造のための補助手段にすぎず、フーチングと同視できないことが認められ、〈証拠〉中、右認定に反する部分は、前掲証拠と対比して信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3)  右事実によれば、本件建物の土工事及び基礎底盤には、いずれも基礎の構造耐力に影響を及ぼす欠陥があると認められるから、土工事及び基礎底盤工事の瑕疵があるというべきである。

(二)  木材

(1)  通し柱

〈証拠〉によれば、本件建物の階下洋間と階上和室の各東南端を結ぶ通し柱の外側部分に、長さ約一メートルの腐材部分があり、入り皮も認められること、本件建築工事の際、腐朽部分は削りおとされ、化粧材を貼り、更に側面から、六〇ミリメートル×一〇〇ミリメートル大の補強材が添えられているが、入り皮部分はそのままであること、入り皮とは、形成層を含む部分が、種々の外傷をうけて傷害組織が形成され、その中に樹皮が巻き込まれて材中に認められるものであつて、この通し柱の腐朽をめぐつて、昭和五四年八月ころから、原被告間に紛争が生じ、被告から、本件建物を買い取り、適当な代替地を見つけて建て替えしたいという提案もなされたことのあることが認められる。

右事実によれば、通し柱に、新築建物に不相当な腐朽部分及び入り皮のある材が使用されたことにより、本件建物の構造耐力に影響を及ぼすものと認められるから、通し柱工事の瑕疵があるというべきである。

(2)  管柱

〈証拠〉によれば、公庫基準では、建築材料は、日本農林規格に適合する品質のものを求めているところ、日本農林規格では、管柱のねじれはきわめて軽微であることを要求していること、ところが、本件建物の階下和室八帖の間の西側の窓両側の管柱二本に最大幅約三ミリメートルのねじれがあり、このねじれは、人が認識可能な程度であることが認められる。右事実によれば、人の目につきやすい和室の管柱に新築建物に不相当な美匠上見苦しい材が使用されているのであるから、管柱工事の瑕疵があるというべきである。

原告は、階下和室六帖の間の南側テラス窓西側の管柱二本にも、ねじれのある不良材が使用されている旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めることはできない。

(3)  小屋裏の梁材

〈証拠〉によれば、小屋裏の梁材に小口割れの著しい材が使用されている事実を認めることができ、新築建物に不相当な不良材が使用されているのであるから小屋裏の梁材工事に瑕疵があるというべきである。

(4)  筋かい材

〈証拠〉によれば、本件建築工事当時の建築基準法施行令四五条二項では、筋かい材の大きさは、これに接する柱の三つ割の木材と規定されており、これに従えば、本件工事では、筋かい材は10.3センチメートル×3.4センチメートルの木材でなければならないこと、本件請負契約では、筋かい材として、8.7センチメートル×3.0センチメートルの木材を用いることになつており、本件工事では、10.0センチメートル×2.8センチメートルの木材が使用されていること、木造軸組の筋かいは専ら圧縮力に対するものであるから、材の厚みは挫屈に抵抗する大切な要素であり、材料工学的に比較するために断面二次モーメントの計算をすると、現況使用材及び本件請負契約の木材の性能は、いずれも本件建築工事当時の前記法令の規定する材より劣ることが認められる。

右事実によれば、前記基準法施行令に違反する筋かい材の設計・施行がなされているのであるから、筋かい材の設計及び施行の瑕疵があるというべきである。

(5)  その他の部材

〈証拠〉によれば、本件請負契約では、一般の市場寸法が日本農林規格による標準寸法より二ないし三ミリメートル小さいことを考慮して本件建物の各部材の寸法が定められていること、部材は、これにかんなをかけて仕上げた上、用いられることから、各面一ないし、1.5ミリメートルの減損が見込まれること、しかし、柱、和室柱、間柱、母屋の使用材は、右市場寸法と標準寸法の差、かんな仕上げによる減損を考慮しても、なお小さく標準寸法において一ランク小さい材が使用されていることが認められる。右事実によれば、木材の品質において約定より劣るものが採用されているのであるから、部材の施工に瑕疵があるというべきである。

原告は、火打ち梁も部材の断面寸法が約定より小さく施工されている旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めることはできず、むしろ、標準寸法をわずかに下回る断面寸法で施工され、約定寸法よりは大きい部材が使用されていることが認められるから、右原告の主張は理由がない。

(三)  木構造の瑕疵

(1)  一階床組に火打土台の取付けがないこと(原告主張の瑕疵(3)の(イ))、二階小屋組西南隅角に火打ち梁の取付けがなく、火打ち梁と二階床組、小屋の組各横架材との仕口が、材それ自体を結合した上でボルトで緊結接合するかたぎ胴付き短ほぞ差しボルト締めとなつておらず、材を釘のみで打ちつけボルトで締めるだけの仕口加工のない突き付け納めとなつていること(瑕疵(3)の(ロ))、小屋組に梁をつなぐ振れ止め、垂直材である小屋束を相互につなぐ小屋筋かい、けた行筋かいの取付けがないこと(瑕疵(3)の(ニ))、小屋組構造材の継手、仕口が適切な緊結金物で補強されておらず、羽子板ボルトの取付けがない箇所もあること(瑕疵(3)の(ホ))、一、二階の接合部の西南隅の柱又はこれに準じる柱に、通し柱もしくはこれに代わるべき耐力補強が施工されていないこと(瑕疵(3)の(ヘ))、床下の束と束とを相互に直交して貫材でつなぐ床束根がらみの取付けがないこと(瑕疵(3)の(ト))、勝手口蹴込みの立上り下地を囲んでいるラス下地ベニヤ板が地面と接する部分に相当な防湿方法がなされていないこと(瑕疵(3)の(チ))は当事者間に争いがない。そして、前記甲第三号証の一、第四号証によれば、瑕疵(3)の(イ)(ロ)(ト)は本件請負契約の内容とされている公庫基準の内容とされていることが認められる。

右事実によれば、瑕疵(3)の(イ)(ロ)(ト)は、本件請負契約に違反し、瑕疵(3)の(ニ)は建築基準法施行令四六条二項に、同(3)の(ホ)は同施行令四七条一項に、同(3)の(ヘ)は同施行令四三条五項に違反しており、瑕疵(3)の(チ)の点も、建物の施工における基本的な欠陥というべきであるから、本件建築工事の瑕疵にあたるというべきである。

(2)  間仕切り壁(原告主張の瑕疵(3)の(ハ))

〈証拠〉によれば、構造計算上、安全な耐力を保つためには、本件建物には、本件請負契約の内容となつている間仕切り壁のほかに、なお数箇所に間仕切り壁を増設する必要があることが認められる。右事実によれば、構造計算上の安全性を考慮して間仕切り壁の設計をなさなかつた点に間仕切り壁設計の瑕疵があるというべきである。

間仕切り壁に、壁すじかいがないことについては、これを認めるに足りる証拠はない。

(四)  床下地盤高

〈証拠〉によれば建築基準法一九条一項、本件請負契約及び公庫基準では、建物の防湿上、屋内地盤には、若干の盛土をして屋外地盤面より約五ないし六セソチメートル高くしなければならないこととされていること、本件工事でも、屋内地盤に約三ないし四センチメートルの盛土をしたが、竣工間際に植木植栽のため、庭に一〇センチメートルばかりの盛土をした結果、屋内地盤面が、屋外地盤面より約五センチメートル低くなつたまま、特に防湿対策も施されていないことが認められる。

右事実によれば、本件床下の地盤高工事については、敷地の衛生面に関し、基本的な欠陥があると認められるから、床下地盤高工事の瑕疵があるというべきである。

(五)  小屋裏換気孔

〈証拠〉によれば、本件請負契約と公庫基準では、特に断熱材施工をしたときには、小屋裏には換気孔を設けなければならないとされていること、もつとも、徳島県下では、台風等のため雨風が非常に強いため、実際には、換気孔を設けず、飾りにすることが多いが、屋根慮ママ換気孔を設けても雨が入らないようにする施工は可能であること、本件建物では、断熱材施工が付されているのに、屋根裏換気孔が施工されず、飾りがつけられているにすぎないが、被告から原告に、徳島県下の右事情を説明した上で、その取付けが省略されたものではないことが認められる。

右事実によれば、外気に対する室内空間の温度、湿度の調整、家屋全体の空気の清浄化等に重要な役割を果たす屋根裏換気孔が設けられていないのであるから、屋根裏換気孔工事の瑕疵があるというべきである。

(六)  設備

(1)  屋外給湯ボイラー

原告は、屋外給湯ボイラーが極端に外壁面に近接して設置されている旨主張するが、本件全証拠によるも、これを認めることはできないので原告の右主張は理由がない。

(2)  電気配線のジョイントカバー

〈証拠〉によれば、公庫基準では、電気工事は、電気事業法による電気設備に関する技術基準、電気供給事業者の諸規程に従い施工することを義務づけているところ、社団法人日本電気協会内線規定では、床下、天井裏等における電気配線は、その接続結線部分においては、ねずみ等の被害により、火炎等の危険がない様に、適当な接続箱を用いなければならないこととされていること、本件建物では、天井裏の電気配線の接続結線部分がすべて露出状態のままとなつていることが認められる。

右事実によれば、電気配線の接続工事に瑕疵があるというべきである。

(3)  屋外排水管

屋外排水管の溜桝から溜桝までの間に九〇度の角度で三か所の曲りがあるが、その一か所に溜桝が設置されていないし、他の二か所は溜桝に直線で連結することが困難なために成り行きまかせに連結されていることは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、屋外排水管の施設についての基本的な欠陥というべきであるから、本件建築工事の瑕疵にあたるものというべきである。

(七)  雨漏り

〈証拠〉によれば、本件建物の引渡し前に、一階台所の天井から雨漏りがあつたことが認められる。しかし、他方、〈証拠〉によれば、右雨漏り箇所は、既に被告によつてコーキングによる補修がなされ、現在では、雨漏りが停止していることを認めることができる。

これらの事実に照らして考えると、現時点でも、吹き上げる強い雨の時には、本件建物に雨漏りがあることを推認することはできず、本件建物に雨漏りの瑕疵があるということはできない。

三被告の責任

(一)  前記認定のとおり、被告は、昭和五四年一二月二三日、本件請負工事を完了し、同日、本件建物を引渡したが、本件請負契約に基づく本件建物の設計、施工に関して前記の瑕疵が認められるのであるから、被告は瑕疵の修補に代わる損害賠償責任を負担すべきである。

さらに証人大塚孝雄の証言によれば、被告は、本件建物の設計監理及び施工について、その従業員である一級建築士大塚孝雄をもつてその任にあたらせていたことを認めることができる。後記認定のとおり、前記の本件建物の瑕疵は木造建築物として重大かつ基礎的なものであるから、右大塚は本件建物の設計監理及び施工に関し、その専門的知識と経験に基づいて適切な指導監督をなすべき義務を有するにもかかわらず、この義務に違背したものといわざるをえず、その点において過失がある。よつて右大塚の使用者たる被告は、その事業の執行につき、原告に加えた損害を賠償する責に任ずべきである。

(二)  示談契約の成立

被告は、本件建物の瑕疵のうち、通し柱に腐朽材を使用した点(瑕(2)の(イ))については、被告が一二六万九一〇〇円相当の門塀等の新設工事を賠償として施工することにより、原被告間に示談契約が成立した旨主張する。

証人大塚孝雄、同速川岩雄の各証言によれば、被告が前記の通し柱の腐朽をめぐる原被告間の紛争の際、被告により、約一〇〇万円程度を要する門塀、照明器具、内装材等のグレードアップの工事がなされ、右工事費用は、本件請負代金額に含まれていないことを認めることができるが、右認定の事実のみによつては、通し柱に腐朽材を使用した点について、原被告間に示談契約が成立したものと推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。被告の右抗弁は理由がない。

四原告の損害

(一)  修補の内容

本件建物には、前記認定のとおり、本件請負契約に基づく設計、施工に関して、瑕疵が存在する。

そして、前記認定事実、〈証拠〉によれば、本件建物には、その基本的、構造的部分に重大な瑕疵があること、特に基礎底盤、構造の仕口、通し柱の瑕疵等について、建築基準法、同施行令に定められている構造耐力を維持するための修補をするには、本件建物をその当該工事時点まで戻す必要があり、そのためには、本件建物の基礎部分、内外装等を一旦撤去する必要があること、新築建物を前提とすれば、住居としての美匠上も一部補修をなすことではまかなえないし、一旦、軸組みに組みこまれた木材は、それ自体欠陥のない木材でも一種の変形をきたしているから、当該内外装材をそのまま使用するためには、かえつて多額の費用を必要とし、その他経費上も、個々の部分的な補修より新規に建て替えた方が経済的であること、したがつて、本件建築工事の瑕疵を修補するためには、結局、本送建物を建て替えるのと同程度の規模の工事を必要とすることが認められ、〈証拠〉中、右認定に反する部分は前掲証拠と対比して信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

被告は、本件建物は、構造計算上、安全性に支障がないから、個別に修補補強すれば足りる旨主張し、〈証拠〉によれば、構造計算上、基礎断面及び柱は、現況において特に支障があるものではないこと、換気孔部のひび割れは収縮クラックと思われ、特に支障はないこと、火打梁、火打土台、耐力壁を新設し、その他仕口等の不備な部分を補強すれば、構造計算上、現行基準上の耐力は確保できるものであることが認められる。しかし、建物の構造上の安全性とは、単に計算上の安全値をいうものではなく、前記認定にかかる資材の不均質や作業工程上の瑕疵等諸々の要因によつて惹起される危険性をも充分考慮に入れたうえで、建物が本来備えているべき機能に支障を来すことがないと考えられる程度の安全域をいうものでなければならないのであるから、仮に、前記諸要因を無視してなされた乙第一、二号証の構造耐力計算の過程に誤りがなく、基礎断面、柱が現況において特に支障があるものではないとの結論が得られたとしても、これをもつて本件建物が安全であるということはできないし、右構造計算自体、既に火打梁、耐力壁の新設、仕口等の不備な部分を補強することを前提として計算されているのであるから、被告の右主張は採用できない。

(二)  損害額の算定

(1)  建替え費用

〈証拠〉によれば、原告は、昭和五六年一〇月二〇日当時における本件建物を建て替えるのと同程度の規模の補修工事をするには、本件建物解体工事費六〇万〇一〇〇円、新規建築工事費九七三万七六七三円、諸経費一七六万五六一七円、合計一二一〇万円(万円未満切捨て)の費用を要することが認められ、原告が、被告に対し、瑕疵の修補に代わる損害賠償請求をした昭和五六年六月三日当時においても同程度の費用を要したものと推認することができる。

なお、前記認定のとおり、本件請負契約は、原告が被告との間で、本件建築工事費用として当初の請負代金額一一〇八万円から減額された一一〇〇万六四一〇円の請負代金で本件建築工事を注文することにより成立したものであることが認められるから、原告は被告に対し、本件建築工事を注文することによつて、一一〇八万円相当の価額を有する建物を建築して取得する意思であつたものと推認でき、本件建物が前記認定の瑕疵のない建物として完成された場合には、少なくとも一一〇八万円相当の価値を有する建物であつたものということができる。そうすると、先に認定した瑕疵の修補費用一二一〇万円は、瑕疵のない本件建物の価額相当の一一〇八万円を超えることになる。しかし、本件建物の修補の内容は、前記のとおり、本件建物を建て替えるのと同程度の規模のものを要するのであるから、修補費用としては、建て替え費用一一五〇万三二九〇円のほかに、建物の取り毀し費用六〇万〇一〇〇円が含まれているものである。又、昭和五四年一二月の本件建物の完成時から瑕疵の修補に代わる損害賠償請求をしたことが記録上明らかな昭和五六年六月三日までの間において、建築資材、人件費等が値上がりしているものと容易に推認できるのであるから、他に建て替え後の建物が、瑕疵のない本件建物の価値を大幅に上回る等の特段の事情の認められない本件においては、前記認定の一二一〇万円をもつて、瑕疵の修補に代わる損害賠償額と認めるのが相当である。

(2)  代替建物の賃料

〈証拠〉によれば、原告は、本件建物の建て替え期間中、代替建物に入居せざるを得ないことになること、本件建物と同等の建物の賃料相当額は一か月一〇万円を下らないこと、本件建物の取り毀し再築には、少なくとも四か月間を要することが認められる。従つて、原告は、取毀し再築期間中、本件建物に相当する建物の賃料として、四〇万円の負担をすることになり、同額の損害を受けることになる。

(3)  引越し費用

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件建物の取り毀し再築前及び再築後に二回にわたり、代替建物との間で引越しをしなければならないこと、引越しには少なくとも一回につき一〇万円を要することが認められるから、原告は引越し費用として二〇万円の負担を余儀なくされ、同額の損害を蒙ることになる。

(4)  鑑定調査費用

〈証拠〉によれば、原告は、本件建物の建築工事の設計施工に関する瑕疵についての資料を収集するため、建築専門家による鑑定、調査を必要としたことから、一級建築士岩永健一に対して、本件建物の欠陥部分、本件建物の補修工事の内容及びその費用等について、調査、鑑定を依頼し、鑑定料として五五万円を支出した事実を認めることができる。そして、前記認定のような本件請負工事の瑕疵の内容、程度、その判定の困難性等を合わせて考えると、原告が支出した右鑑定料五五万円は、本件請負工事の瑕疵と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

(5)  慰謝料

〈証拠〉によれば、原告は、念願の自宅を新築したものの、建築途中から通し柱の腐朽をめぐる紛争に悩まされ、建築後も前記認定の数多くの瑕疵の存在が判明し、大きな打撃を受けたことが認められる。そして瑕疵の内容、程度、契約及び工事の経緯等一切の事情を総合し、原告に生じた算定困難な諸々の損害をも含めて考えれば、その額は八〇万円と考えるのが相当である。

(6)  弁護士費用

本件弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用、報酬の支払を約したことを認めることができる。そして、被告が瑕疵担保責任のほか、不法行為責任を負担することは前認定のとおりである。本件事案の内容、損害額その他弁論の全趣旨を考慮し、被告が負うべき相当因果関係にある原告の弁護士費用は一四〇万円とするのが相当である。

〈以下、省略〉

(福永政彦 森宏司 神山隆一)

物件目録

徳島県板野郡北島町新喜来字二分一番地九

家屋番号 同所一番六九

木造スレート葺二階建居宅

床面積 一階 74.11平方メートル

二階 28.98平方メートル

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